介護事業の創業計画書の書き方と記入例|公庫に通る実例で完全解説
2026/02/10
介護現場で長年研鑽を積み、理想のケアを実現するために独立を決意された皆さま。いざ「介護事業を立ち上げよう」と動き出したとき、最初に立ちはだかる大きな壁が、日本政策金融公庫などへ提出する「創業計画書」ではないでしょうか。
「介護への想いは誰にも負けないけれど、書類に落とし込むのが苦手」「数字の根拠をどう説明すればいいのか分からない」……そんな不安を抱えるのは、あなただけではありません。実は、介護事業の融資審査で落ちてしまう最大の原因は、情熱の不足ではなく「書き方の構造ミス」にあります。
この記事は、単なる制度の説明ではありません。今まさにパソコンの前でペンを止め、悩み、葛藤しているあなたのために、そのまま使える「例文」や「具体的な書き方の型」を網羅した実務マニュアルとして作成しました。この記事を読み終える頃には、融資担当者が思わず納得し、応援したくなるような、精度の高い創業計画書を自分の手で書き上げられるようになっているはずです。
この記事を読んでほしい人
- 「介護現場の経験は豊富だが、創業計画書をどう書き始めればいいか迷っている」方
- 「介護事業の融資審査に一発で通りたいが、自分の計画の甘さが不安な」方
- 「訪問介護やデイサービスなど、業種に合わせた具体的な例文を参考にしたい」方
- 「人件費や稼働率など、介護事業特有の数字の出し方・書き方を知りたい」方
- 「絶対に失敗したくない。専門家の視点で合格ラインの書き方を学びたい」方
介護事業の創業計画書が難しい理由と、審査を通るための心得
介護事業は、他の一般業種とは大きく異なる特徴を持っています。そのため、一般的な起業の本に載っているような書き方では、融資担当者を納得させることはできません。
なぜ介護事業の創業計画書はハードルが高いのか
介護事業が特殊とされる理由は、主に4つあります。
- 1. 制度事業であること:介護報酬という公的な枠組みの中で運営されるため、売上の単価を自分たちで自由に決めることができません。
- 2. 高い人件費比率:サービスを支えるのは「人」であり、経費の大部分を人件費が占めます。
- 3. 複雑な収支計算:稼働率、定員数、さらに各種「加算」が複雑に絡み合うため、収支の整合性を取るのが困難です。
- 4. 厳しい人材確保の壁:資格を持ったスタッフを計画通りに採用できるか、その「現実性」が厳しく問われます。
金融機関(公庫)が介護事業で見ている3つの視点
日本政策金融公庫などの金融機関は、あなたの計画書を通じて以下の3点を確認しています。
- 継続性:一過性のブームではなく、数年、数十年と地域に根ざして事業を続けられるか。
- 人材確保の現実性:慢性的な介護職不足の中、どうやって優秀なスタッフを集め、定着させるのか。
- 数字の整合性:売上の予測、経費の算出、借入金の返済計画に、論理的な矛盾がないか。
これらを「作文」ではなく、客観的な「事実と予測」で埋めていくことが、合格への最短ルートです。
日本政策金融公庫の創業計画書フォーマット全体像
まずは、公庫の指定フォーマットがどのような構成になっているか、全体像を把握しましょう。介護事業においても、基本的には以下の8項目を順番に埋めていくことになります。
- 1. 創業の動機:なぜこの事業を始めるのか
- 2. 経営者の略歴等:あなたに経営の資質があるか
- 3. 取扱商品・サービス:誰にどんなケアを提供するのか
- 4. 取引先・取引関係等:連携する医療機関や居宅介護支援事業所はどこか
- 5. 従業員:スタッフは何人で、採用の目処は立っているか
- 6. お借入の状況:個人の借り入れ状況(住宅ローン等)
- 7. 必要な資金と調達方法:いくら必要で、いくら用意できるか
- 8. 事業の見通し(月次計画):毎月の利益と返済の目処
ここからは、それぞれの項目について、介護事業に特化した具体的な「書き方の例」と「注意点」を詳しく解説していきます。
【最重要】介護事業における創業の動機の書き方例
創業の動機は、計画書の「顔」です。しかし、多くの人がここで「想い」だけを語りすぎてしまい、評価を下げてしまっています。
創業の動機でよくあるNG例
- 「高齢者を笑顔にしたい」という想いだけ:素晴らしいことですが、ビジネスとしての裏付けがありません。
- 「社会貢献がしたいから」という抽象的な表現:それだけならボランティアでも良いのではないか、と判断されてしまいます。
公庫に評価されやすい「書き方の型」
評価される動機には、「なぜ今、この場所で、あなたでなければならないのか」という「必然性」が盛り込まれています。
- 1. 原体験:現場で感じた課題や不足しているサービス
- 2. 強み:自身の専門性や地域でのネットワーク
- 3. 勝機:地域の高齢化率や競合の状況から、ニーズがあると判断した理由
業種別の動機の書き方・例文
例:訪問介護の場合
「10年間、〇〇市の訪問介護事業所でサービス提供責任者として勤務してきました。地域では独居高齢者が急増しており、特に夜間の緊急対応へのニーズが非常に高いものの、既存の事業所では対応しきれていない現状を目の当たりにしてきました。これまでの管理者経験と地域包括支援センターとの連携実績を活かし、夜間対応型訪問介護に特化した事業所を設立することで、住み慣れた地域で最期まで暮らせる環境を支えたいと考え、創業を決意しました。」
例:通所介護(デイサービス)の場合
「理学療法士として病院リハビリに8年従事し、退院後の高齢者がリハビリを継続できる場所が不足しているために機能低下を招くケースを多く見てきました。本計画では、機能訓練特化型のデイサービスを開設し、自身の専門性を活かした個別プログラムを提供します。対象地域にはレクリエーション中心のデイサービスは多いものの、リハビリ特化型は不足しており、近隣の居宅介護支援事業所5社からも早期開設の要望をいただいております。」
経営者の略歴・経験の書き方|介護職向けの翻訳術
経歴欄は「これまでの資格自慢」をする場所ではありません。「あなたがこの事業を成功させられるリーダーかどうか」を証明する場所です。
評価される経歴の書き方のポイント
- 現場経験:資格だけでなく、どのようなケアを何年行ってきたか。
- 管理経験:リーダー、主任、管理者として、何人の部下を持ち、どのような目標管理をしてきたか。
- 数字に触れた経験:シフト作成、レセプト請求、予算管理など、事務・経営的な経験は非常に高く評価されます。
良い書き方の対比例
ダメな例:介護福祉士。特別養護老人ホームで10年勤務。
良い例:介護福祉士として特養にて10年勤務。うち3年間はフロアリーダーとしてスタッフ15名の教育・管理を担当。入居率98%維持のための見学対応や、事故防止委員長として事故発生率20%削減に寄与。
取扱サービス・事業内容の書き方|制度前提で具体化する
介護事業の内容は、誰にでも分かる言葉で、かつ「制度の要件」を満たしていることが伝わるように書く必要があります。
サービス内容の書き方(例)
以下の要素を漏れなく記載しましょう。
- 対象者:要介護1〜5、特定の疾患を持つ方など
- 提供地域:〇〇市全域、および隣接する〇〇町
- 提供時間・定員:平日9:00〜18:00、定員10名
- 差別化:独自の強み(例:看取り対応可能、言語聴覚士による嚥下訓練あり)
差別化を「盛りすぎない」理由
「あれもこれもできる」と書きすぎると、逆に「本当にできるのか?」「スタッフの負担が大きすぎて離職するのではないか」と懸念されます。まずは基盤となるサービスを確実に遂行できる計画にしましょう。
取引先・関係先の書き方|連携の「根拠」を示す例
介護事業は、自社だけでは成り立ちません。ケアマネジャーや医療機関との連携が、売上の生命線となります。
評価される書き方の例
- 居宅介護支援事業所:挨拶回りを済ませ、「開設したら紹介を検討する」と前向きな回答を得ている具体的な事業所名を記載します。
- 医療機関:協力医療機関の承諾を得ている病院名など。
- 地域包括支援センター:相談済みの担当者名などがあればより確実です。
根拠なく「大手紹介サイトから集客する」といった記載は、介護事業の実態を知らないと判断され、NGとなります。
従業員計画の書き方|介護事業最大の審査ポイント
「誰が働くか」は、介護事業において最大の審査ポイントです。採用計画が甘いと、それだけで融資は通りません。
人員構成の書き方例
- 開業時:管理者1名、サービス提供責任者1名、ヘルパー2名(うち確保済み3名、公募中1名)
- 6か月後:利用者の増加に合わせてパート2名を追加採用予定
採用計画を甘く見せないコツ
単に「求人媒体に出す」だけでなく、「以前の職場の同僚が2名、一緒に立ち上げることに合意している」「近隣の専門学校と連携し、実習生を受け入れる体制がある」など、具体的な確保ルートを示すことが重要です。
必要な資金と調達方法の書き方例
資金計画は、数字の正確さ以上に「整合性」が問われます。自己資金と借入のバランス、そして使い道が妥当かをチェックされます。
初期費用の書き方の例
- 設備資金:事務所の内装工事、車両(軽自動車2台)、介護ソフト、PC・周辺機器
- 運転資金:人件費、家賃、広告費(最初の3〜6か月分)
特に訪問介護などは設備資金が少ない分、運転資金を多めに確保しているかが安全性の指標となります。自己資金は、総事業費の少なくとも20〜30%は用意しておくのが理想的です。
【最大の山場】事業の見通し(月次計画)の書き方例
ここが、最も多くの人が挫折するセクションです。しかし、介護事業は単価が決まっているため、実は最もロジカルに数字を導き出せる業種でもあります。
売上の書き方(根拠の例)
単価 × 稼働率 × 定員(または件数)
例:平均単価8,000円 × 稼働率80% × 定員10名 × 22日 = 1,408,000円/月
※加算(処遇改善加算等)も忘れずに計算に含めますが、保守的に見積もるのがコツです。
支出の書き方(注意点)
- 人件費:法定福利費(社会保険料など、給与の約15%)を忘れずに計上してください。ここが抜けていると、計画が甘いと一喝されます。
- 赤字期間:介護事業は入金が2か月遅れる(レセプト)ため、最初の3か月程度は「赤字」になるのが正常です。その期間をどう手元資金で耐えるかを明確に書きます。
介護事業の創業計画書でよくあるNGパターン例
以下のいずれかに当てはまると、審査は非常に厳しくなります。
- 数字に根拠がない:「なんとなくこれくらい売れる」は通用しません。
- 加算をフル前提で書く:加算の要件を満たせないリスクを考慮していません。
- 初月から満床(満稼働)前提:ケアマネジャーとの信頼構築には時間がかかることを無視しています。
- 生活費と事業資金が混ざっている:個人の財布と事業の財布を分けられない人は、経営者として信頼されません。
「この水準まで書けていればOK」という合格ライン
完璧な計画書である必要はありません。以下の条件を満たしていれば、合格ラインに到達していると言えます。
- 1. すべての項目が論理的に埋まっている
- 2. 売上と経費の数字に一貫性がある
- 3. 「もし利用者が集まらなかったら」という最悪ケースを想定した対策がある
まとめ|介護事業の創業計画書は「作文」ではない
介護事業の創業計画書で最も大切なのは、綺麗な文章を書くことでも、専門用語を並べることでもありません。必要なのは、「あなたの事業が、地域に必要とされ、かつビジネスとして成り立つ」という客観的な説明です。
この記事を参考に、まずは一通り埋めてみてください。書いていくうちに、自分の計画の「強み」と「弱点」が見えてくるはずです。
もし、
「どうしても数字の整合性が取れない」
「自分の経歴をどうアピールすればいいか分からない」
「一度プロに添削してほしい」
と少しでも感じたなら、一人で抱え込まずに私たち「創業融資メンター」にご相談ください。
私たちは、あなたの介護にかける情熱を、金融機関が「YES」と答える強力な事業計画書へと変換するお手伝いをしています。あなたが理想のケアを実現し、地域の高齢者やスタッフに愛される事業所を作るための第一歩を、全力でサポートいたします。
あなたの夢が、確かな形になる日を心より応援しています。
この記事の監修者
井崎忠弘
株式会社ハッピー・メンター 代表取締役社長
資格・所属:行政書士、CFP(上級ファイナンシャルプランナー)、一般社団法人融資コンサルタント協会 会員
大学を卒業後、大手人材派遣会社に入社。2006年に独立し、現在は会社経営者として活躍する傍ら、行政書士やCFPとしても多岐にわたり活動中。
経営コンサルティングや融資支援、補助金申請のサポートを行うプロフェッショナル。