創業融資の相談を受けていると、たまに聞かれることがあります。「日本政策金融公庫って、そんなにたくさん貸し倒れて大丈夫なんですか?」と。実は公庫の決算を確認すると、直近7期は一度も黒字になっていません。普通の会社ならとっくに倒産している数字です。今回は、なぜそんな会社(正確には特殊会社)が存続しているのか、決算資料の実際の数字から考えてみます。
- 日本政策金融公庫の直近7期分の決算(当期純利益・純損失)の実際の数字
- 赤字の主な原因が「貸倒引当金」、つまり融資の焦げ付き見込みであること
- 創業融資を含む個人向け業務(国民生活事業)の赤字が特に大きいこと
- 赤字でも公庫が存続できる理由(政策金融という仕組み)
- この赤字が「起業の難しさ」と「政策投資」の裏返しであるという見方
「公庫って国のお金でやってるんだから、赤字でも潰れないんですよね?」
そのとおりなのですが、「なぜ赤字なのに続けているのか」まで理解しておくと、創業融資という制度そのものの見え方が変わってきます。まずは実際の数字を見てみましょう。
1.日本政策金融公庫は本当に「万年赤字」なのか
日本政策金融公庫は決算のたびにニュースリリースをホームページで公開しています。そこで公表されている「当期純利益(当期純損失)」を、直近7期分並べてみました。
| 決算期 | 公庫全体の当期純利益(▲は損失) | 主な出来事 |
|---|---|---|
| 令和2年3月期 | ▲296億円 | コロナ前の通常期 |
| 令和3年3月期 | ▲1兆372億円 | コロナ特別融資・保証の急増 |
| 令和4年3月期 | ▲3,875億円 | コロナ融資の影響が継続 |
| 令和5年3月期 | ▲2,687億円 | |
| 令和6年3月期 | ▲823億円 | |
| 令和7年3月期 | ▲2,008億円 | 能登半島地震対応など |
| 令和8年3月期 | ▲2,925億円 |
すべての期でマイナスです。少なくとも直近7期については、黒字だった年度は1つもありません。令和3年3月期の1兆円超という損失は、コロナ関連の特別融資・保証が急増した特殊要因が大きいのですが、コロナが落ち着いた後も、数千億円規模の赤字が毎年のように続いています。
本記事の数字は、日本政策金融公庫が公式サイトで公開している各期の決算リリース(ニュースリリース「日本政策金融公庫の令和◯年3月期決算について」)に基づいています。最新の数字は必ず公式サイトでご確認ください。
2.赤字の正体は「貸し倒れ」への備え
ではなぜ、これだけの赤字が出ているのでしょうか。決算資料を見ると、赤字の主な要因として繰り返し登場するのが「貸倒引当金繰入額」という項目です。
かみ砕くと、「これから貸し倒れそう(返ってこなさそう)な金額を、あらかじめ経費として計上しておく」という会計上の仕組みです。友達にお金を貸すとき、「これは返ってこないかもしれないな」と思ったら、貸した時点で心の中で「損失」として覚悟しておく、というイメージに近いものです。
公庫の決算資料を見ると、たとえば創業融資を含む個人向け業務(国民生活事業)だけでも、年によって2,000億円台〜2,400億円規模の貸倒引当金繰入額が計上されています。この部門は直近7期のうち確認できたすべての年度で赤字でした。
創業融資を含む「国民生活事業」の赤字が目立つ理由
- 実績のない創業者・小規模事業者にも、原則無担保・無保証人で融資している
- 民間銀行なら断るような案件も、政策目的で引き受けている
- その分、貸し倒れ(焦げ付き)の見込み額も大きく計上される
つまり「焦げ付きが多い=起業がそれだけ難しい・不確実なものである」ということの裏返しとも言えます。創業融資は、統計的に一定割合が計画通りに進まないことを織り込んだうえで設計されている制度なのです。
3.普通の会社なら倒産する。なぜ公庫は存続できるのか
民間企業がこれだけの赤字を毎年出し続ければ、資本が食いつぶされて経営が立ち行かなくなります。しかし日本政策金融公庫は100%政府出資の政策金融機関であり、株式会社ではあるものの、一般企業とは前提が異なります。
- 赤字が出た分は、出資金という形で国から資本が補われる
- そもそも「利益を出すこと」ではなく「民間だけでは届かない資金需要に応えること」が目的
- 災害・経済危機(コロナ禍、地震対応など)の際は、あえて赤字覚悟でセーフティネットの役割を担う
言い換えると、この赤字は経営の失敗ではなく、あらかじめ想定された「政策コスト」だということです。すべての部門が赤字というわけでもなく、中小企業向け融資などの一部門は黒字になる年もあります。赤字部門と黒字部門を組み合わせたポートフォリオとして、公庫全体の役割が成り立っている、という見方もできます。
4.赤字の一部は「一握りの成功企業」への投資
ここが今回、一番お伝えしたかったポイントです。創業融資の焦げ付きは、裏を返せば「多くの企業が計画通りにはいかない」という現実そのものです。実際、創業した会社のすべてが順調に育つわけではありません。
ただし、その中から一部、着実に売上を伸ばし、雇用を増やし、法人税や消費税という形で税収に貢献していく企業が出てきます。公庫の赤字は、そうした「一握りの成長企業」が生まれる土壌をつくるためのコストだ、という捉え方ができます。
- 創業融資は「必ず成功する人だけに貸す」制度ではない
- 一定の焦げ付きは、制度設計の段階で織り込み済み
- その中から生まれる成長企業・雇用・税収が、社会全体としてのリターンになる
これから創業融資を検討している方にとっては、「赤字続きの公庫が、なぜあなたのような実績のない起業家にもお金を貸そうとするのか」の背景がここにあります。公庫にとって創業融資は、そもそも短期的な採算だけで判断する事業ではないのです。
審査が甘いという意味ではありません
赤字が制度設計上織り込み済みだからといって、審査が緩いわけではありません。事業計画の実現可能性や返済能力は、通常どおり厳しく確認されます。「どうせ焦げ付き前提だから適当に貸してくれる」と考えるのは誤りです。
よくある質問
Q日本政策金融公庫は倒産する可能性がありますか?
政府が100%出資する政策金融機関であり、通常の民間企業のような倒産リスクとは前提が異なります。赤字が出た場合も出資という形で資本が補われる仕組みになっています。
Q赤字が多いということは、創業融資の審査が今後厳しくなりますか?
赤字そのものが直接的に個々の審査基準を左右するものではありませんが、金利や制度の内容は年によって見直されます。最新の条件は必ず公式サイトや窓口でご確認ください。
Qこの記事の決算数字はどこで確認できますか?
日本政策金融公庫の公式サイトで、各期の決算に関するニュースリリースが公開されています。最新の決算内容は必ずそちらでご確認ください。
まとめ
日本政策金融公庫は、公式決算を見る限り直近7期すべてで赤字となっており、いわば「万年赤字」の状態が続いています。
- 令和2年3月期〜令和8年3月期まで、公庫全体の当期純利益はすべてマイナス
- 赤字の主因は貸倒引当金繰入額、つまり融資の焦げ付き見込み
- 創業融資を含む国民生活事業の赤字は特に目立つ
- 政府出資の政策金融機関であるため、赤字=経営破綻ではない
- 赤字は「起業の難しさ」と「そこから生まれる成長企業への政策投資」の裏返しと捉えられる
公庫の創業融資そのものの選び方・全体像は創業融資とは?種類と選び方をわかりやすく解説で、公庫の組織としての成り立ちは日本政策金融公庫の歴史|創業融資はどう変わった?で解説しています。