個人事業主として事業を続けてきて、いよいよ法人化(法人成り)を考えるタイミング。「法人になったら、また一から創業融資を受けられるの?」「今借りている公庫のお金はどうなるの?」という疑問を持つ方は少なくありません。この記事では、法人成りのタイミングで使える融資、個人時代の借入金の引き継ぎ方、必要書類まで、実務目線でまとめて解説します。
- 法人成りのタイミングでも、公庫の創業融資が使えるのかどうか
- 個人事業主時代に借りていた公庫の借入金を、法人にどう引き継ぐか
- 法人成りの融資申し込みで必要になる書類
- 自己資金なしでも法人成りの融資は受けられるのか
- 借入金引き継ぎの仕訳の基本的な考え方
法人成りのご相談では、「今の借入をどうすればいいのか分からず、法人化自体を先延ばしにしていた」という方によく出会います。実は、多くの場合そこまで複雑に考える必要はありません。まずは、法人成りと融資の基本的な関係から整理していきましょう。
法人成りでも、創業融資は使える
法人成りとは、これまで個人事業主として行ってきた事業を、新しく設立した法人に引き継ぐことです。法人としては新規に設立されるため、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」の対象になり得ます。
ただし、まったくのゼロから創業する人と、まったく同じ扱いというわけではありません。個人事業主時代の決算内容(売上・利益・税金の納付状況など)が、審査の重要な判断材料になる点が大きく違います。
個人事業主時代の実績は、プラスにもマイナスにもなる
個人事業主として黒字を続けてきた実績があれば、「事業を継続する力がある」という強い根拠になります。逆に、赤字が続いていたり、税金の未納があったりすると、法人成りだからといって審査が有利になるわけではありません。
日本政策金融公庫の創業融資の基本的な仕組みについては、「創業融資とは?」の記事で解説しています。あわせてご覧ください。
体験談:法人成りを先延ばしにしていたGさんのケース
以前、個人でネイルサロンを営んでいたGさんという方から、法人化のご相談を受けたことがあります。
「開業のときに公庫から300万円借りていて、まだ半分くらい残っているんです。法人化したいけど、この借金がどうなるのか分からなくて、ずっと踏み切れずにいました」
Gさんは、「法人成りすると、個人の借金も自動的に法人へ移されてしまう」と思い込んでいました。実際には、個人の借入をそのまま法人に引き継がず、個人事業主として返済を続けながら法人化する、という進め方が実務上はよく選ばれています。
このケースからわかること
借入金の扱いに対する誤解が、法人化そのものを遅らせてしまうケースは少なくありません。「借入をどう扱うか」は選択肢がいくつかあるので、思い込みで諦めず、早めに公庫や専門家に相談することが大切です。
個人事業主時代の借入金、どう引き継ぐ?
ここが、法人成りにあたって多くの方が気になるポイントです。選択肢を整理して説明します。
1パターンA:個人の借入は、個人のまま返済を続ける
実務上、もっとも多いのがこのパターンです。法人成りしても、個人事業主時代の借入契約はそのまま個人に残り、あなた個人が返済を続けます。法人は法人として、必要であれば新たに公庫へ融資を申し込みます。
- 手続きがシンプルで、契約の変更が発生しない
- 法人の借入とは切り離して考えられる
- 個人の返済実績は、あなた自身の信用として積み上がっていく
2パターンB:借入を法人に引き継ぐ(債務引受)
個人の借入を法人の借入として引き継ぐ方法もあります。これを「債務引受」と言います。誰が最終的に返済する義務を負うのかを、あらためて整理し直す手続きとイメージしてください。
債務引受は公庫との個別相談が前提
債務引受を行うかどうか、どのような形で行うかは、公庫との個別の相談・審査が必要です。自分だけの判断で進められるものではなく、法人の状況によっては認められないこともあります。法人成りを検討し始めた段階で、早めに公庫の窓口へ相談しておきましょう。
3どちらを選ぶべきか
特別な事情がなければ、パターンA(個人の借入はそのまま、法人は別枠で新規融資を検討する)の方が、手続きがシンプルで進めやすいケースが多いです。パターンBは、法人の財務内容を個人の借入も含めて一本化したい場合などに検討される選択肢と考えておくとよいでしょう。
法人成りの融資で必要になる書類
法人成りの融資申し込みでは、通常の創業融資に加えて、個人事業主時代の実績を示す書類が必要になります。
定款、登記簿謄本(履歴事項全部証明書)、法人としての創業計画書など、通常の創業融資と同様の書類です。
直近数期分の確定申告書(決算書)が求められるのが一般的です。これが実質的な「実績証明」の役割を果たします。
個人事業主時代に公庫や他の金融機関から借りている場合、その借入残高が分かる資料の提出を求められることがあります。
必要書類は状況によって変わるため、申し込み前に必ず公庫の窓口で最新の案内を確認してください。
自己資金なしでも、法人成りの融資は受けられる?
創業融資全般に言えることですが、制度上の自己資金要件はすでに撤廃されています。ただし、実務上は今も自己資金の有無が判断材料の一つです。詳しくはこちらの記事で解説しています。
法人成りは、実績が自己資金の代わりになりやすい
まったくのゼロから創業する場合と違い、法人成りでは個人事業主時代の事業実績そのものが、自己資金以上に重要な判断材料になることがあります。「自己資金はあまりないが、個人事業主として何年も黒字を続けてきた」という場合は、その実績を丁寧に説明することが重要です。
借入金引き継ぎの仕訳、基本の考え方
会計処理についても、よくご質問をいただきます。ここでは基本的な考え方だけ押さえておきましょう。
| ケース | 会計処理の考え方 |
|---|---|
| 個人の借入をそのまま個人で返済(パターンA) | 法人の帳簿には計上しない(個人の借入のまま) |
| 個人の借入を法人へ引き継ぐ(パターンB) | 法人側で「借入金」を計上し、相手勘定として「代表者からの借入」等を用いるのが一般的 |
仕訳の詳細は税理士に確認を
実際の仕訳は、法人成りのスキーム(個人の資産・負債をどこまで法人へ引き継ぐか)によって細かく変わります。この記事の内容はあくまで基本的な考え方の紹介です。実際の処理は、必ず顧問税理士や会計事務所に確認しながら進めてください。
創業系補助金との関係に注意
法人成りを機に、創業系の補助金・助成金もあわせて使えないかと考える方もいます。ここは注意が必要なポイントです。
- 多くの創業系補助金は「新たに事業を始める人」を対象としており、個人事業主として実績のある事業を法人化しただけでは、対象外と判断されるケースがあります
- 一方で、事業承継・引継ぎ関連の補助金など、法人成りのような形態変更を想定した制度が使える場合もあります
- 制度ごとに要件が細かく異なるため、法人成りを検討し始めた段階で、利用したい補助金の要件を個別に確認しておきましょう
よくある質問
Q法人成りのタイミングで、公庫以外の金融機関にも相談すべきですか?
個人事業主時代からお付き合いのある信用金庫や銀行があれば、あわせて相談することをおすすめします。法人成りは、金融機関との関係を見直すよい機会でもあります。
Q個人事業主時代に赤字の年があった場合、法人成りの融資は難しいですか?
赤字の年があったからといって、必ず融資を受けられなくなるわけではありません。ただし、赤字の理由や現在の状況を具体的に説明できるようにしておくことが重要です。
Q法人成りの手続き自体は、自分でもできますか?
定款作成や登記手続きは自分で行うことも可能ですが、税務・会計面も含めて、司法書士や税理士と連携しながら進めるケースが一般的です。融資の相談とあわせて、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
今日から確認しておきたいチェックリスト
- 個人事業主時代の借入金を、どう扱うか方針を決めているか(個人継続 or 債務引受)
- 直近数期分の確定申告書(決算書)を整理できているか
- 法人としての創業計画書の準備を始めているか
- 利用したい補助金があれば、法人成りでも対象になるか確認したか
- 顧問税理士や公庫の窓口に、早めに相談しているか
まとめ
法人成りのタイミングでも、日本政策金融公庫の創業融資は活用できます。個人事業主時代の借入金は、多くの場合「個人のまま返済を続け、法人は別枠で新規融資を受ける」という形で整理されます。
- 法人成りは新規設立にあたるため、新規開業・スタートアップ支援資金の対象になり得る
- 個人事業主時代の借入金は、「個人のまま返済継続」が実務上の主流。法人へ引き継ぐ「債務引受」は公庫との個別相談が前提
- 個人事業主時代の確定申告書(決算内容)が、実質的な実績証明として重要になる
- 創業系補助金は、法人成りだと対象外になるケースがあるため事前確認が必須